新型コロナウイルスと新興国の廃棄物管理 前編:新興国で何が起こっているのか?

寄稿者:NTTデータ経営研究所 東 信太郎

■はじめに
新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)は、地球全体に広まり私たちの生活に様々な点から、多大なる影響を与えている。

廃棄物管理については、マスク等の使い捨てプラスチック製品の増加等が報じられているところであるが、本稿ではアジアの新興国を中心に、COVID-19が廃棄物管理にどのようなインパクトを与えているのかを整理したい。マスクや手袋等が新たな海洋ごみとして流出するだけでなく、もっと大きな問題が立ち現れようとしている。

 前編では、COVID-19が新興国の廃棄物管理に与えている影響を具体的に紹介する。中編ではそうした影響を整理し「問題の所在」を明らかにし、後編でその対応策について考察する。

■タイ プラスチックごみの増加

運河から何トンものプラスチックを回収しているバンコク都職員 *1

 タイ国内では使い捨てマスクの消費量は日量100万~200万個に上り、首都バンコクでは150トン/日のマスクが廃棄された*2。プラスチックごみについて、バンコクでは2020年4月のプラスチックごみの量は通常時から60%増加し3,432トン/日に上り、うち80%がテイクアウトの容器やカップ、ボトル類、包装材であったと報じられた。そして、タイ全体でのプラスチックごみの発生量はこれまでは200万トン/年と見られていたが、2020年は30%程度増加するとみられる*3。

そして、増加するプラスチックごみについては、早くも運河等に滞留し始めており、やがて海洋へ流れつくとみられる*4。タイの海洋へのプラスチック流出量は世界第6位であるが、上位はアジアの国々となり、同様のプラスチックごみの発生増は避けられず、海洋へ流れ出す量も増加するとみられる。

■インドネシア リサイクル産業への打撃

*インドネシアウェストピッカー組合長が窮状を訴える

 インドネシアでは、プラスチックリサイクル産業が壊滅的な打撃を受けている。同国では、プラスチックのリサイクル産業は、12万人の直接雇用者と、330万人のウェストピッカーと呼ばれるインフォーマルセクターによって支えられてきた。ところが、COVID-19後、半数以上の6万人を超える直接雇用者が職を失っている*5。定量的なデータが存在していないものの、プラスチックをはじめとする有価物の収集と販売で生計を立てているウェストピッカーの多くは、収入を失っているとみられている。

 この背景にあるのは、経済活動の制限によるプラスチック原料の需要減少と、原油価格の下落である。集めたリサイクル可能なプラスチックを販売する相手がいない、さらには買取価格もこれまでにない低水準となると、プラスチックリサイクル産業は立ち行かなくなる。

 こうした事態を憂慮し、具体的な動きに出ているのが、ユニリーバ、ダノン、ネスレ等の外資系企業と、国内大手食品メーカーであるインドフードである。こうした企業は、製造する製品を通して大量のプラスチック包装材を供給していることから、以前からインドネシアにおけるプラスチックのリサイクルの推進に取り組んでいた。リサイクル可能なプラスチックの70%にあたる年間100万トンを回収するというウェストピッカーの役割を理解しており、プラスチックリサイクルの体制を崩壊させないために、食糧や消毒剤の支援等を行っている*6。

■インド ウェストピッカーのフォーマル化

*COVID-19の発生後もマスクを着けて廃棄物回収を続けるウェストピッカー*7

 インド西部の都市プネーでは、ウェストピッカーの組合的な性格を有するSWaCHによる廃棄物の回収システムが存在している。プネー市公社(PMC)との契約に基づき、SWaCHに所属するウェストピッカーが家庭の廃棄物を収集し、家庭から処理費を得ている。3,500人のウェストピッカーが所属しており、人口400万人を超えるプネー市の70%にあたる廃棄物を回収している。プラスチック等の有価物の分別回収とリサイクル、有機物のコンポスト処理の一端も担っており、プネー市における廃棄物管理の効率化、低コスト化、環境負荷の低減に寄与している。これは、ウェストピッカーが果たす役割を理解した上で、インフォーマルではなく、フォーマルな存在として廃棄物管理において公的セクターとの協力体制を構築することに成功している好例だ。

 COVID-19の発生後、既述のインドネシアのように有価物の回収を生業とするウェストピッカーは大打撃を被っている。一方、SWaCHは組合として公的セクターとの協力により活動していることから、その被害を軽減することに成功している。その大きな一因は収入の確保である。インドは3月25日より全土で都市封鎖を行っているが、廃棄物の収集は続けられている。プネー市公社との連携やNGOの協力もあり、ウェストピッカーはマスクや手袋等を着用して廃棄物の回収を続けることで収入を得ている。インドにおいても、プラスチックのリサイクル産業は休止状態であるが、SWaCHは各家庭からの廃棄物収集費用を得ているため、収入を失うという事態には陥っていない*8。

 プラスチックごみの増加、プラスチックリサイクル産業への打撃、インフォーマルセクターの被害軽減という3つの事例を紹介したが、これはそれぞれの国における特有な事例ではなく、新興国で起こっていることを象徴しているものである。中編、後編ではその背景と問題の所在、処方箋について考察する。

中編へ続く


1)Asia Times, Food deliveries add to Thai plastic headache, JUNE 20, 2020 https://asiatimes.com/2020/06/food-deliveries-add-to-thai-plastic-headache/ (2020年7月30日に最終閲覧)
2)Pattaya Mail, COVID-19 increases the amount of infectious and plastic waste in Thailand, April 19, 2020 https://www.pattayamail.com/coronavirus/covid-19-increases-the-amount-of-infectious-and-plastic-waste-in-thailand-296131 (2020年7月30日に最終閲覧) 
3)Reuters, Plastic piles up in Thailand as pandemic efforts sideline pollution fight, MAY 11, 2020 https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-thailand-plastic/plastic-piles-up-in-thailand-as-pandemic-efforts-sideline-pollution-fight-idUSKBN22N12W (2020年7月30日に最終閲覧)
4)Asia Times, Ibid.
5)Antara news, Industri daur ulang plastik rumahkan 63.000 pekerja akibat COVID-19, May 5, 2020 https://www.antaranews.com/berita/1467057/industri-daur-ulang-plastik-rumahkan-63000-pekerja-akibat-covid-19 (2020年7月30日に最終閲覧)
6)Global Alliance of Waste Pickers, Indonesian Waste-pickers in a Dire Situation due to the COVID-19 Lock-down, April 27, 2020 https://globalrec.org/2020/04/27/indonesian-waste-pickers-in-a-dire-situation-due-to-the-covid-19-lock-down/ (2020年7月30日に最終閲覧)
7)Lakshmi Narayan, Co-founder, SWaCH, SWaCH- waste pickers in the times of COVID, June 25, 2020 https://www.unenvironment.org/events/conference/online-dialogue-integrated-waste-management-during-covid-19 (2020年7月30日に最終閲覧)
8)インドの記載について、Lakshmi Narayan, Ibid.及び、SWaCHウェブサイト https://swachcoop.com/ を参照した。


*本記事に掲載している写真と本文は関係がありません

この記事を書いた人

THINK WASTE 編集部

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