【特集】エネルギー転換期、水素事業の潮流(海外編)

気候変動対策における水素活用の広がり 後編:海外における水素事業の潮流

前編では国内における国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や自治体、企業や大学などの動きを紹介したが、後半では特にヨーロッパを中心とした海外の水素戦略を紹介する。

海外での動き
韓国
今年9月、韓国の水素経済を主導する15社の会員企業で構成された水素企業協議体、「コリアH2ビジネスサミット」が発足した。今回の協議体は現代自動車、SK、ポスコの3グループにより発足が主導された。今後この協議体に参加する企業は増加傾向にあるため、協議体の規模は拡大していくものと見られる。定例会では技術、政策、グローバル協力の3つの分野において重点協力課題を取り扱うこととなる。特に韓国では地理的要因もありグリーン水素の製造は不利な状況であり、水素産業の大部分が活用分野に集中しているため、生産・貯蔵・運送領域で遅れをとっている。協議会ではこの状況を打開すべく、水素需給とインフラ領域で企業間協力を強化していくことを決め、現代自動車、SK、ポスコ、ハンファ、暁星の5グループは2030年までに生産・貯蔵・運送領域も含め水素分野に43兆4000億ウォン(約4兆円)規模の投資を決めた。さらに水素港湾を実現し、水素生態系の構築を推進する水素港湾計画を発表しており、水素の生産や輸入、貯蔵、供給、活用の更なる効率化を図る考えだ。

EU全体として
EUでは欧州委員会と産業界が共同で設立した官民パートナーシップである欧州燃料電池水素共同実施機構がEU全体での水素事業の実証や技術術開発を主導している。2014年から2020年にかけて総予算、約1700億円規模での事業を実施している。また欧州燃料電池水素共同実施機構が主導しEUにおける水素活用のロードマップを作成。2050年までに総エネルギー需要の24%を水素による供給を目指す。

イギリス
水素は政府の気候危機対策において重要な柱のひとつである。英国石油化学大手INEOS(以下イネオス)は、年内にもロンドン証券取引所に上場する予定の投資ファンドHydrogenone Capital Growth(以下Hydrogenone)に対し、少なくとも2500万ポンド(約40億円)を投資することに合意した。イネオスはすでに 2020年からヨーロッパ全土の水素製造プラントへの出資計画を打ち出している。今回のイギリス市場への参入は、今後開始が予想されるイギリス政府の2.4億ポンド(約370億円)規模の水素生産支援計画を見越しての発表となった。ブリティッシュ・ガスの親会社でもあり、イギリス最大のガス事業者のCentrica plc. も水素事業への投資を準備しており、政府と共同でイギリス北東部沖のにある、使用されなくなった海底ガス貯蔵所を水素貯蔵所に作り替える約100億円に相当する6.5億ポンドの計画について検討を始めている。(ThinkWaste 21.07.19

ドイツ
2050年までにカーボンニュートラルを実現するため、2020年6月、国家水素戦略を採択し総額90億ユーロ(約1兆1160億円)の予算を確保するとしている。水素エネルギーはいくつかの種類に分類されるが、その中でもグリーン水素のみが長期的に持続可能であると明示している。2030年までに5GWの電解施設とそれに必要な発電施設を建設を行い、グリーン水素生産を14TWh、これに必要な再生可能エネルギーの発電量である20TWhを目指す。さらに遅くとも2040年までに電解施設の規模を10GWまで拡大を目標にする。国内での水素生産は重要分野の一つであるが、さらには工業分野、交通分野、国際貿易などの分野にも注力したい考えだ。政府主導の企業・学術界・個人・自治体に向けの助成金や補助金があり、さらには連邦州ごとの水素戦略とそれらの支援制度がある。

オーストリア
2030年までに全ての電力を再生可能エネルギーに切り替え、2040年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を持つオーストリアでは、水素の活用をその重要な要素と位置づけ研究開発が進められている。とくに公共交通機関への活用が注目されている。代替エネルギーとしての水素は2017年頃から議論され、2019年にはオーストリアを世界一の水素国家にするという目標が掲げられ、10年間にわたり総額640億円以上の投資を行うという公約が掲げられた。2021年に閣議決定された再生可能エネルギー拡大法の一環として、2030年までに約640億円を投じてグリーン水素の導入を促進する計画が発表された。
2019年の議会選挙の際、国民党のセバスティアン・クルツ党首は同党の環境保護戦略を発表。「オーストリアを世界一の水素国家にする」と宣言した。政府が、今後10年間にわたって水素の研究と普及のために総額5億ユーロ(約640億円)以上を投資し、水素研究所の設立、科学者の確保、企業向けの支援措置、水素自動車への買い替え支援金、水素ステーションの設置などを実行し、水素エネルギーの利活用を加速させるというものだった。

ノルウェー
2020年6月、ノルウェー初となる水素戦略を公表し、水素の製造・活用を推進している。特に海上での水素利用に注力する。ノルウェーではグリーン水素に限らずブルー水素も活用し温室効果ガスの削減を目指す。現在水素活用や製造における定量的目標は設定されていないものの、研究・開発事業における支援策などを策定している。水素関連技術開発を中心とするENERGIXプログラムに約15億円の出資を決めると同時に、水素駆動船などの低排出高速船向けに2.4億円の資金を供与している。

フランス
2020年9月国家水素戦略を発表し、2030年までに約9000億円を投資し、2030年までに6.5GW(ギガワット)のクリーン水素製造設備の設置と600万トンのCO2排出量の削減を目指す。国家戦略には水分解によるクリーン水素製造セクターの創出、クリーン水素を燃料とする大型モビリティーの開発、水素分野の研究・イノヴェーション・人材育成が含まれる。国内での水素製造設備の建設を進める他、大型モビリティの開発・普及に関してはさまざまなニーズに対応した機器やシステム開発のために2023年までに約450億円を投資する。また、地方自治体と企業がコンソーシアムを組んだ事業に約350億円を投資する予定だ。
一方、研究・イノベーション・人材育成、さらには教育や訓練事業には約120億円の投資が予定されている。

まとめ
今回は、前編・後編と日本国内外の事例や政策を紹介しながら水素事業の拡大を確認してきた。気候変動対策において、各国の排出目標達成のために重要な役割を果たす水素だが、水素活用の実用化はまだ長い道のりだ。また、水素活用は昨今の気候変動など世界的な危機に対する有力な手段ではあるが万能薬ではなく、その他のエネルギー政策や資源循環政策などと合わせて検討される必要がある。持続可能な社会へ向けた各国、企業、その他多くのアクターの今後の動きに注目したい。

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【引用元】
*本記事に掲載している写真と本文は関係がありません

この記事を書いた人

THINK WASTE 編集部

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