新型コロナウイルスと新興国の廃棄物管理 中編:廃棄物管理に生じた問題とは?

寄稿者:NTTデータ経営研究所 東 信太郎

■はじめに
前編を受けて、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)がアジアを中心とした新興国にどのような影響を与えるのかを考察する。

下図は、感染性廃棄物(医療廃棄物、ヘルスケアごみとも呼称される)、家庭業系一般ごみ、そして事業系一般ごみを対象に、COVID-19が新興国の廃棄物管理に与えている影響を整理したものである。

COVID-19による新興国の廃棄物管理への影響(NTTデータ経営研究所にて作成)

■感染性廃棄物の処理
 病院等から排出されるマスク等は、感染性廃棄物として処理されている。感染性廃棄物については、新興国においてもその対応方法が法律等で定められており、COVID-19の発生を受けて新たな法規制を制定したケースも見られる。また、WHOやUNEPが具体的な処理方法を示すガイドラインを整備しており*1、技術的には感染性廃棄物処理の方法は確立している。

 最大の課題は、COVID-19への対応によって大量に発生する感染性廃棄物の処理となる。アジアの都市においても、感染性廃棄物の量が20から30%増加したといわれ*2、東南アジアの首都では、日量150トン~300トン近くの感染性廃棄物が発生しているという推計もある*3。中国の武漢では通常時の6倍もの感染性廃棄物が発生したが、仮設の焼却炉を建設し、爆発的に増加した感染性廃棄物を処理した。アジアを中心とした新興国においては発生量と比較して処理施設のキャパシティーが不足していると想定され、「発生量増加が半年近く続く中、感染性廃棄物が適正に処理されているのか?」という疑念が立ち上がる。

新興国では、感染性廃棄物を適切に処理するための焼却炉を有していない病院も少なくはない。一部報道によると、小規模の病院や診療所においては、マスク等を一般廃棄物と同様に、埋め立て処分場に投棄しているケースもある。幸いにして、廃棄したマスク類による新たな感染の事例は見られないようだが、法規制に則って焼却炉が設置、維持管理されているかどうかを確認するとともに、発生量に応じた焼却炉や安全な埋め立て処分場等の処理施設を整備することが必要となる。COVID-19の再流行や他の感染症が発生することも想定し、感染性廃棄物の処理体制を再構築することも検討する必要があるだろう。

■一般廃棄物の処理
 一般廃棄物を見ると、家庭から排出されるものは20%程度増加しているが、商業施設や工場等から排出される事業系の一般廃棄物は相当減少しているとみられる。その結果、つまり家庭系の増加、事業系の減少により、一般廃棄物の総量としては40%程度減少していると報告されている*4。

 一般廃棄物については、家庭系は地方自治体等の公共セクターが中心となり収集を行い、事業系は民間企業が商業施設や工場との契約に則って収集を行う。ここで経済的な打撃を受けているのが、事業系一般廃棄物を収集している民間企業である。収集量の減少、後述するプラスチッックリサイクル産業への打撃も相まって、相当な影響が出ていると想定される。

 家庭から排出される一般廃棄物については、日本でも実施された「ステイホーム」のような政策が各国で実施された結果、前述の通り発生量が20%ほど増加している。一般廃棄物の収集については、COVID-19の流行下でも通常通り実施されているが、収集運搬に携わる部門や委託を受けている民間企業の処理キャパシティーが、発生増加に追い付いていない可能性がある。回収が追い付かなくなると、不適正な廃棄が増加することになる。

■プラスチックリサイクルへの打撃
 COVID-19による、廃棄物管理への影響が最も顕著に表れたのが、プラスチックリサイクルである。そのインパクトは、プラスチックのリサイクルが壊滅的になる可能性があるといっても過言ではない。具体的なインパクトは、販売価格の下落、プラスチック需要の低減である。

原油価格はCOVID-19が世界的な広がりを見せ始めた3月には1バレル50ドル前後であったが、その後、20ドル前後にまで急落した。その原因は、COVID-19による経済活動等の縮小といわれている。2008年のリーマンショック直後でも、原油価格は40ドル前後であったことから、今回の原油価格急落の激甚さが分かる。原油価格が下落すれば、リサイクルプラスチックの販売価格も同様に下落することになる。加えて、経済活動が縮小しているために、プラスチックの製造量も低下しており、収集したプラスチックの需要も低減している。プラスチックを回収しても販売先がなく、販売できたとしてもかつてないほどの低価格では、プラスチックリサイクル産業は成り立たない。

■リサイクルされないプラスチックの増加
 新興国においては、日本における容器包装リサイクル法のような「拡大排出者責任(EPR)」制度が整備されておらず、ペットボトル等の容易に収集、分別できない包装材等は、リサイクルの対象となっていない。こうした、「リサイクルされないプラスチック」の発生量は急激に増加しているとみられる。

 まず指摘されるのは、COVID-19対策として、「使い捨てプラスチック」の発生量が増加した点である。家庭等で使用されるマスクや手袋等は、リサイクルされないプラスチックの一例である。また、経済封鎖やステイホーム等の政策によって、飲食店からのデリバリーやテイクアウトが増加したが、そうした食品類にはプラスチック製の容器やスプーン、フォークが使用され、プラスチックの包装材やレジ袋によって何重にも包装されている。

 次に懸念されるのが、「かつてはリサイクルされていたプラスチック」である。前述の通り、原油価格の下落とプラスチック需要の低減によって、リサイクル可能なプラスチックの処理が経済的に成り立たず、ただのプラスチックごみとして扱われる可能性がある。前編ではタイの運河にペットボトル等が滞留し始めたことを紹介したが、COVID-19によってリサイクル可能なプラスチックが処理すべきプラスチックごみとなり、その一部が海洋へと流出するという負の連鎖が発生している。

 次回掲載する後編では、こうした問題に対する具体的な対処策について考察する予定である。

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1)WHO(World Health Organization), Safe management of wastes from health-care activities 2nd edition, 2014
UNEP and Secretariat of the Basel Convention, Technical guidelines on the environmentally sound management of biomedical and healthcare wastes, 2003
2)Economic Research Institute for ASEAN and East Asia, Policy Brief NO. 2020-05 : Strengthening Waste Management Policies to Mitigate the COVID-19 Pandemic, July 2020
3)Asian Development Bank (ADB) , Managing Infectious Medical Waste during the COVID-19 Pandemic, 2020
4)Economic Research Institute for ASEAN and East Asia, ibid.


*本記事に掲載している写真と本文は関係がありません

この記事を書いた人

THINK WASTE 編集部

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