新型コロナウイルスと新興国の廃棄物管理 後編:新しい日常と廃棄物管理

寄稿者:NTTデータ経営研究所 東 信太郎

■はじめに

COVID-19による新興国の廃棄物管理への影響と問題

前編中編から、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)によって生じる、新興国における廃棄物管理の問題とは、1.感染性廃棄物の処理キャパシティー不足、2.使い捨てプラスチックごみの増加、3.プラスチックリサイクルの停滞であることが分かった。

結局のところ、COVID-19によって大きな影響を受けているのは、通常時の廃棄物管理において脆弱な部分であることが分かる。「新しい日常」と「BBB(Build Back Better)」に向けての課題は、「COVID-19発生前から存在していた課題にどのように対峙するのか」という問いに他ならない。

■感染性廃棄物の処理

パンデミックが発生すると莫大な量の感染性廃棄物が発生することが判明したことを受け、医療施設における焼却炉等を整備していく、というシンプルな対応となる。感染性廃棄物の処理体制整備については、国際機関や先進国からの経済的、人的な支援が必要とされるであろう。日本の医療用廃棄物処理ソリューションについては、かねてから新興国への展開が指向されており、ビジネスチャンスとなる可能性もある。

家庭から排出されるマスク等については、科学的な見地からの検証が必要ということが前置きとなるが、プラスチック由来の使い捨てマスクは医療施設などに限定し、一般家庭では繰り返し使用できるマスクの使用を推奨することも考えられる。

■使い捨てプラスチックの発生抑制

新しい日常において、感染防止のために使い捨てプラスチックを大量に消費し、廃棄するような生活となることを避けるためには、どのような取り組みが必要であろうか?

新興国でもスーパーマーケットなどで使用される使い捨てのプラスチックバッグ、いわゆるレジ袋への課金制度を導入する等して、プラスチックごみの排出削減に取り組んでいるが、COVID-19の感染対策としてレジ袋の使用量や包装材が増加する可能性がある。これを機にバイオマス素材を積極的に活用すること、感染症との関連について科学的な検証が前提ではあるが、ボトルや容器のリユースを検討することも必要だろう。これは、COVID-19の流行以前からの課題に向き合うことに他ならない。

■EPRの導入とプラスチックリサイクルの制度化

プラスチックリサイクルに関して、COVID-19が提起した課題は「経済性に依存しているだけでは、リサイクルが成立しないことがあり得る」ことである。

新興国においても、包装材については日本の容器包装リサイクル法のような、拡大生産者責任(EPR)に基づく制度の導入が検討されている。これは、包装材のメーカー、包装材を使用する製品メーカーから処理費用を徴収し、リサイクル事業者への処理費に充てるというような仕組みだ。EPRを導入することにより、プラスチックの収集、運搬、処理そのものに、対価を支払うことができるようになる。現状では、リサイクルの販売益だけでは利益が出ないような包装材であってもリサイクルの対象となる可能性がある。

一方、新興国においては、特に地方部ではEPRの仕組みを構築し、実施していくためのノウハウ、人的リソースが決定的に不足しているのも事実だ。また、原油価格などの市況に影響を受けることも否めない。

■もう一つのPCRとメーカーへの期待

ここで期待されるのが、包装材のメーカーや包装材を使用する製品メーカーの役割である。こうしたプラスチック包装材のサプライチェーンに関与している企業において、PCR(Post Consumer Recycling)を掲げたプラスチックリサイクルの動きが活発化の兆しを見せている。原油価格の動向に関わらず、メーカーが包装材にリサイクルプラスチックを可能な限り使用することになれば、パンデミックが発生しても廃プラスチックの買い手が存在するために、リサイクルは機能し続ける。

PCRを推進させるために、高機能の包装材等の開発が進められているほか、廃プラスチックを集める仕組みの再構築を志向する企業も登場しており、『THINK WASTE』でも、度々具体的な動きが取り上げられている。こうした取り組みは、CSR活動ではなく海洋プラスチック問題等を背景にした、各企業の本業における取組となっている。廃プラスチックに、原油の代替という経済性以外の新たな有価性が認められ、具体的な仕組みが構築されつつあるといっても過言ではない。

前述のEPRが実現するまでには時間がかかると想定されるが、PCRの本格化がプラスチックリサイクル産業の強靭化、持続可能化につながると期待したい。COVID-19によって、もう一つのPCRの必要性、存在感が増すといえよう。

■廃棄物管理体制の組織化

EPRと、もう一つのPCRが導入されることにより、廃棄物管理体制の組織化を促進させる効果が期待できる。具体的には、インフォーマルな存在を、フォーマルとしていくことである。その好例は、前編で示した、SWaCHの活動であろう。インドのプネーでは、ウェストピッカーの廃棄物管理における役割を正確に理解した上で、廃棄物の回収やリサイクルに対する対価を支払う仕組みを構築した結果、リサイクル量を増やしながら、公的セクターの廃棄物分野への支出を削減させることができた。インフォーマルセクターのフォーマル化は、インフォーマルセクターの生活を安定させるだけではなく、廃棄物管理の効率向上と支出削減につながる施策として、検討する価値があるだろう。

■むすび

COVID-19が廃棄物管理に投げかけた最大の問いは、「有価物による収益のみに依存しているプラスチックリサイクルの在り方」だと考える。原油安や、プラスチックの需要減によって廃プラスチックのリサイクルが停滞し、不適切管理や海洋流出が増加する、というような事態は避けなければならない。そこで注目したいのが、もう一つのPCRであり、「プラスチックに、新たな有価性を認めること」である。

新興国においては、政府だけでなく、民間企業がEPRやPCRにおいて存在感を発揮し、廃棄物管理を先導することが期待される。むしろ、民間セクターが廃プラスチックのリサイクルを先導するような兆しさえ見える。我が国のリサイクル産業にとっても、新興国のリサイクル等を先導するような試みが期待される。
プラスチックの回収においては、公的セクターやメーカー等の企業だけではなく、持続可能な世界への貢献、社会課題の解決という観点から、ICTやブロックチェーンを活用したスタートアップ等が登場し始めている。EPRやPCRの導入を背景に、COVID-19を奇貨として、新しいソリューションが登場することを期待したい。

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この記事を書いた人

THINK WASTE 編集部

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